小説の書き綴り

短編小説、雑学、ニュース記事などを雑記に書き綴ります。

シャッターの向こうの愛

 

 

彼女の名前は美咲、普段は地味なOLだが、休日は一眼レフカメラを手に街を彷徨うことが唯一の楽しみだった。

 

ある日、美咲が公園で散歩していると、見知らぬ男が絵画のような風景を描くようにカメラを操っているのを目撃した。

その男、名は直人。彼の視線の先にあるのは、常に美しい景色だけだった。

 

直人との偶然の出会いが、美咲の日常に色を添えていった。

彼の見せる風景は、美咲の心に深く刻まれ、彼女自身の世界観をも変えていった。

 

二人の距離は徐々に縮まり、やがて友人以上恋人未満の微妙な関係に。

しかし、直人はあくまで風景を愛するカメラマンで、美咲への思いを胸に秘めたままだった。

 

美咲は彼の視線が自分ではなく風景に向けられることに苛立ちを感じ、一方で彼の美術品のような写真に惹かれていた。

しかし、彼女は自分の気持ちを隠すことができなかった。

 

ある日、美咲は思い切って直人に告白する。

しかし、彼は驚き、一瞬、途方に暮れた表情を浮かべる。

直人は美咲に対して恋愛感情を持っていなかった。

彼女には驚きとともに、深い悲しみが訪れた。

 

しかし、その夜、直人は美咲に向けてカメラを向け、シャッターを切った。

彼のカメラに映ったのは、愛おしくて、儚い美咲の姿だった。

 

「君は僕の風景だ、美咲。だけど、それは愛とは違う。ごめんなさい」と、彼は言った。

 

傷心の美咲だったが、直人の言葉とその写真を見て、自分が彼の中で特別な存在であることを知った。

それは恋愛とは違う形の愛かもしれない。

それでも、美咲は彼の視線を受け入れ、新たな一歩を踏み出した。

 

美咲は涙を拭い、直人に微笑んだ。

「それでも私は、直人と一緒にいたい。あなたの風景として、あなたのカメラを見つめ続けたい。それでいいの、直人。」

 

直人は驚いたが、その驚きはやがて温かな笑顔に変わった。

「ありがとう、美咲。一緒にいてくれて、本当にうれしいよ。」

 

以降、二人は特別な関係を保ちつつ、一緒に風景を見つめ続けた。

直人は美咲を、美咲は直人のカメラを見つめ、その中に見える風景を共有した。

 

時間は過ぎ、彼らの関係は変わらなかった。恋人とは違う、しかし友人以上の深い絆で結ばれていた。

美咲は直人のカメラを通じて、彼の視線がどこに向けられているのかを感じ、その視線を共有することで、彼との絆を深めていった。

 

そして、美咲は彼の風景となり、彼の一眼レフカメラの中で永遠に生き続けた。

彼女の愛は、彼のシャッターを通じて、彼の心の中に刻まれ続けた。

 

最後に直人は、美咲に向けてカメラを構え、ゆっくりとシャッターを切った。

「君は、僕の中の最高の風景だよ、美咲。」

 

その言葉が、彼女の心に深く響き渡る。それは、彼女にとって最高の愛の告白だった。

 

その日から、美咲は直人の「風景」であることに誇りを感じるようになった。

恋愛とは異なるこの絆が、彼女に新たな生きる力を与えた。

 

直人と美咲は共に街を歩き、美しい風景を見つけては撮影した。

美咲の微笑みは、直人のレンズ越しに世界に広がり、彼女の存在は彼の作品を通して人々の心に響き渡った。

 

美咲は直人のカメラの前で、自然体でいることができた。

彼女は彼のレンズを通じて、自分自身を見つめ直すことができ、自己を再確認した。

 

直人もまた、美咲と過ごすことで新たな視点を得た。

彼の作品はより深みを増し、多くの人々に感動を与えるようになった。

 

そして、ある日、直人は美咲に向けて再びカメラを構えた。

「美咲、君は僕の一生の風景だ。僕のレンズが君を捉え続ける。これからも、ずっと一緒にいてほしい。」

 

その言葉に、美咲の心は溢れ出る愛で満たされた。

彼女は深くうなずき、直人に微笑んだ。

「私も、直人と一緒にいたい。これからも、あなたの風景として、あなたのカメラを見つめ続けたい。」

 

その時、二人の間に流れる空気は、恋人たちが交わす愛情以上の深い絆を感じさせた。

それは恋愛とは異なる形の愛でありながら、彼らにとっては最も特別で、最も深い愛だった。

 

彼らの物語はここで終わりではなく、むしろ新たな始まりだった。

彼らの愛はカメラを通じて、そしてそれぞれの心を通じて、永遠に続いていくのだった。