小説の書き綴り

短編小説、雑学、ニュース記事などを雑記に書き綴ります。

冬の桜、夏の風

 

 

冬の終わりに彼女は現れた。桜の木の下で、一人で立っている彼女の姿は、まるで春を先取りしているかのようだった。彼女の名前は陽菜(ひな)。学園で一番の美少女と噂される彼女だが、その性格は一見冷たく、近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。

一方、主人公の健太は、クラスのどこにでもいる平凡な男子学生。しかし、彼には他人にはない特技があった。それは、どんなに隠れていても、人の本当の気持ちを見抜くことができるという能力。その能力のせいで、他人と深く関わることを避けて生きてきた。

ある日、健太は偶然、陽菜が一人で涙を流しているのを見かける。普段の彼女からは想像もつかない光景に、思わず声をかけてしまう。

「大丈夫?」

陽菜は驚いた顔で健太を見上げた後、すぐにいつもの冷たい表情に戻る。

「あなたには関係ないでしょ。放っておいてよ。」

その言葉にも、健太は引かなかった。彼の中には、彼女を放っておけない何かが芽生え始めていた。

健太は毎日、陽菜のそばに居続ける。彼女が一人でいるとき、偶然を装って話しかけ、一緒に学校の帰り道を歩くようになる。はじめのうちは、陽菜はいつものように冷たく突き放していたが、次第にその態度は変わり始める。

「なんで、あんたみたいなのが、私のことなんか...」

「だって、お前が気になるんだもん。」

健太の真っ直ぐな眼差しに、陽菜は少しずつ心を開いていく。彼女が冷たい態度を取るのは、実は過去のある出来事が原因で、人を信じることが怖くなっていたからだった。健太の優しさに触れるうちに、陽菜は徐々に変わっていく。そして、春が本格的に訪れる頃、二人の距離はぐっと縮まっていた。

「健太、あんたがそばにいてくれるなら、私...もう一度、信じてみてもいいかな。」

「陽菜、俺はお前のこと、ずっと信じてるから。」

桜の木の下で、二人は手を繋ぐ。陽菜の頬には、冬の名残を告げるかのような冷たい風が触れたが、健太の手の温もりがそれをすぐに温かさで包み込む。

この物語は、ツンデレキャラクターである陽菜が、主人公・健太の純粋な優しさに触れ、徐々に心の壁を取り払っていく過程を描いている。彼女の変化は、春の訪れとともに開花する桜のように、美しく、そして温かいものだった。