深夜のラジオ局から流れるメロディーが、タカシの心に静かに響いていた。
彼は夜な夜な、この時間を楽しみにしていた。
「こんばんは、リスナーのみなさん。 今夜もあなたにとって大切な曲をお届けします。
その声は、彼の高校時代の同級生、サエコのものだった。
彼女は今、人気のラジオパーソナリティとして多くの人々に愛されていた。
タカシはいつも、彼女の声を通じて心の中のサエコに語りかける。
「サエコへ。もし君がこれを聞いていたら、君に伝えたいことがあるんだ。」
タカシは心の中でそっとつぶやいた。
彼にはサエコに伝えられなかった想いがあった。 それは、青春の一ページに刻まれた恋心だ。
ある夜、タカシは勇気を出してリクエストフォームに手紙を書いた。
「あの頃の想いを、この曲に乗せて。」
彼が選んだのは、二人が高校時代に一緒に聴いた思い出深い曲だった。
数日後、サエコはそのリクエストを読み上げた。
「こちらは、タカシさんから。あの日の約束を、今も覚えていますか?」
エアウェーブを通じて、彼のメッセージは夜空を越え、彼女に届けられた。
サエコの心は、その言葉に深く打たれた。
彼女もまた、タカシのことを忘れたわけではなかった。
「タカシさん、この曲をあなたに捧げます。」
音楽が始まると、タカシの心は震えた。
それは彼の長年の想いが、ついにサエコに届いた瞬間だった。
泣きそうな声で、彼は一人、静かに感謝の言葉をつぶやいた。
「サエコ、ありがとう。 君の声は、今も昔も僕の心に響いているよ。
そんな彼の思いは、ラジオの波に乗って、遠く離れたサエコのもとへと届いた。
遠く離れていても、音楽は二人の心を結んでいた。
その夜以来、タカシはサエコの番組に度々メッセージを送るようになった。
そして、サエコはそれに応えるように曲を選んだ。
二人は音楽を通じて、心の距離を縮めていった。
「君に届け」とタカシはつぶやく。
それはただの曲のリクエストではなく、彼の変わらない愛の告白だった。
そして、サエコの「届いたよ」という返事が、また新たな曲として流れるのを、タカシは待っていた。