小説の書き綴り

短編小説、雑学、ニュース記事などを雑記に書き綴ります。

雷鳴と恋心

 

 

空は突如として暗くなり、遠くで雷が鳴り始めた。
静かな午後の読書を楽しんでいたエミは、本から顔を上げて窓の外を見た。
稲光がきらめくたびに、彼女の心は古い記憶へと引き戻される。

それは高校時代、初めての恋の記憶だった。
彼の名はリョウ。彼との初めてのデートは、予期せぬ雷雨に見舞われた。
二人で雨宿りした古びた図書館の隅っこのベンチは、彼らの特別な場所となった。

エミは心地よい読書の時間を終え、いつものカフェへ足を運んだ。
ふと、カフェの片隅に座る一人の男性が目に留まる。
彼は眼鏡の奥で濡れた髪を気にしながら、書類に目を通していた。

カフェに雷の音が響き渡り、男性がぎゅっと書類を抱えた瞬間、エミは息をのんだ。
「リョウ?」声に出してしまいそうになるが、彼女はその場で凍りついた。
男性が振り返り、彼女を見つめる。彼の瞳は懐かしい輝きを湛えていた。

「エミ…?」彼の声は不意に聞こえた雷鳴と共に、彼女の名を呼ぶ。
まるで時間が逆行したかのように、二人は互いを確かめ合う。
エミは立ち上がり、ゆっくりと彼のテーブルへと歩み寄る。

「何年ぶり?」彼女の声は静かだが、心は激しく鼓動していた。
「十年かな。」リョウは温かい笑顔で答え、その瞳は昔と変わらぬ優しさで満ちていた。
彼らの間には過去の思い出が、雷鳴に乗って蘇っている。

カフェは雷で一時的に停電し、ろうそくの灯が優しく揺れる。
二人は過去の記憶について話し始め、幾度となく交わした眼差しは次第に深い絆へと変わっていく。
リョウの手が、少し震えながらもエミの手をそっと握る。

「エミ、君とまたこうして話せるなんて…」リョウの言葉は真剣そのものだった。
エミは彼の手の温もりに心を寄せ、二人の関係は新たなスタートを切る準備をしていた。
外は依然として雷が鳴り響いているが、カフェの中は温かく穏やかな時間が流れていた。

雷が去った後、空は驚くほど美しい夕焼けに染まっていた。
「君との出会いも、こんな風に突然だったね。」リョウが笑う。
「そうね。でも、雷が私たちをまた一緒にしたのかもしれない。」エミは優しく微笑んだ。

彼らの心には、雷の思い出が永遠の輝きとして残ることになる。
それは予期せぬ出会いから始まった、二人だけの恋物語だった。