春の陽気が街を包み込むある日、陽だまりに揺れる桜の花びらが、ふたりの恋の始まりを告げるかのように舞い散った。
それは、静かで淡い、初恋の物語だった。
陽気な少年・晴は、毎日の登校途中で見かける美しい少女・紗月に心奪われていた。
彼女の瞳に映る桜の花は、まるで絵画のように美しく、彼の心をとらえて離さなかった。
ある日の放課後、晴は偶然紗月が図書館で読書を楽しんでいるのを見つける。
彼女が読んでいたのは、古い詩集。
彼女の趣味に興味を持ち、晴は勇気を振り絞って話しかけることに決めた。
「あの、紗月さん。その詩集、面白いですか?」
恥ずかしそうに声をかける晴。
「え?あ、はい...。好きな詩がたくさんあるんです」と紗月は照れくさそうに微笑んだ。
それからというもの、ふたりは図書館での出会いをきっかけに、だんだんと親しくなっていった。
春風に吹かれる帰り道、桜の下で過ごす時間は、ふたりにとってかけがえのないものとなり、初恋の予感がふたりを包んだ。
しかし、ある日突然、紗月の両親が仕事の都合で転勤することが決まり、彼女は遠く離れた街へ引っ越すことになってしまった。
別れの時、晴は涙をこらえながら、紗月に告白する勇気が持てず、ただ、詩集に綴られた言葉を口にした。
「桜の花が舞い散るように、僕たちの想いもきっと遠くへ届く。」
その言葉を聞いて何を思い、感じたのかはわからない。
紗月は静かに涙を流しながら、笑顔でうなずいた。
彼女もまた、晴への想いを胸に秘めていたのだ。
時が流れ、ふたりはそれぞれの道を歩んでいった。
だが、桜が咲くたびに、ふたりの心は、あの春の日の想い出と、淡い初恋に戻された。遠く離れた街で暮らす紗月は、桜の木の下で詩を読みながら、晴と過ごした時間を思い出し、ほろ苦い笑顔を浮かべた。
また、晴も同じく桜の木の下で、紗月と交わした言葉を心に刻みながら、大切な想い出を胸に秘めていた。
それから数年が過ぎたある日、晴は大学で文学の勉強をしていた。
ある講義で、詩人の先生が紗月の名前を紹介する。
彼女は新進気鋭の詩人として名を馳せ、その才能が評価されていたのだ。
その瞬間、彼の胸に抑えきれない喜びと驚きが溢れた。
卒業後、晴は紗月が住む街へと足を運んだ。
彼女の詩の朗読会が開かれるという情報をつかんだ晴は、迷わずチケットを手に入れ、会場へと向かった。
ステージで紗月が詩を朗読する姿は、かつての彼女と変わらず、美しく優雅だった。
朗読会が終わった後、ふたりは偶然会場の外で再会を果たす。
目が合った瞬間、時が止まったかのような感覚に襲われ、互いの存在を確かめ合った。
「晴くん、会いたかった...」
「紗月さん、僕も...ずっと忘れられなかった。」
彼らは、かつての淡い初恋が、遠く離れても変わらない強い絆となって再び結ばれることを確信した。
そして、桜の花が舞い散るあの場所で、ふたたび出会ったこの奇跡を大切にし、ふたりの新たな物語が始まるのだった。