小説の書き綴り

短編小説、雑学、ニュース記事などを雑記に書き綴ります。

十月の吐息

 

十月の吐息は、空気を揺らす。

思わず足を止め、ハラハラと舞い落ちる葉を目で追う。
彼女、真希は公園のベンチに座り、秋の空を見上げた。

 

彼と初めて出会ったのも、ここであった。


彼、陸は、葉を踏みしめながら、笑顔で彼女に近づいた。

彼女は何も語らず、ただその瞬間に心から感謝していた。

そこにはただ、深く暖かい何かが存在していた。

彼らは、お互いの瞳の中に未来を見ていた。

 

二人は手を繋ぎ、紅葉のトンネルを歩いた。
葉のカーペットが、まるで愛を囁いているかのようだった。
静寂の中、真希は陸の顔を見つめ、そして、囁いた。

「私、この瞬間を一生忘れない。」

彼は彼女を抱きしめ、軽くキスをした。
彼らの唇が触れた瞬間、空はさらに深く紅く染まった。


時間は止まり、ただその瞬間だけが永遠のように感じられた。

陸は真希の耳元で、言葉を紡いだ。

「私も、真希。君と一緒にいるこの時間は、僕の宝物だ。」

 

だが、十月の風は冷たく、彼の心にも隠された秘密があった。
彼は病に侵され、残された時間があまりにも限られていたのだ。

彼は彼女を傷つけないよう、自分の気持ちと、その事実を隠し続けた。


だが、彼女が彼の額に手を当てた瞬間、彼女は理解した。
その温度が、伝えたかった全てを語っていたからだ。

彼女は泣かなかった。彼女は彼の手を握り、言った。

「愛しています、陸。」

 

彼が返すのは、涙に濡れた瞳で、微笑んだ顔。秋の風が、彼らをやさしく包んだ。

そして、彼の吐息は、十月の空に消えていった。

 

紅葉は舞い散り、真希はただそこに座り続けた。


彼の存在は感じられる。

風が彼女の頬を撫でる度、彼の囁きが聞こえるのだった。

「ありがとう、真希。君との時間、忘れないよ。」

彼女の心は、それだけで満ち足りていた。

十月の風と共に、彼の声が遠くへと消えていった。